Art @ Foalu★Null
Artist Twitter https://twitter.com/foalu
Artist Site https://foalu.wordpress.com/
I wrote a novel from the atmosphere of this illustration.
Now is Contents of Japanese only.
English Translation is undecided.
coming soon...?
Foaluさんから頂いた「Leyのヴードゥー人形的ぬいぐるみを作るFoaluさん」のイラストにインスピレーションがビビっと来たので、
短編読み物を書いてみました。
【サトゥラリアの夜に】
星霜の月25日、タムリエルの人々は“サトゥラリア”を祝う。
古き時代には単に放蕩に浮かれ騒ぐ休日だったが、
今日では親しい間柄の人へ感謝の意を表す為の贈答行ったり、パーティーを開く日と認識されるようになっている。
街の中はお祭り気分の人々で溢れかえり、通りは様々な露店が並び、
そこかしこの家から楽しげな声が響き渡る。
SKYRIMと呼ばれる土地の北方にある大都市ソリチュード、その街も例に漏れず人々で賑わい、
日が落ちた後も市内の大通りには露店が並び続け、
平時は厳しい鍛錬や戦いに明け暮れる兵士達も一時の平穏を楽しんでいた。
普段は大きな門で住民以外の出入りが制限されているこの街も、今日のみは大門が開かれ、
行商人や賑わい目当ての観光客など訪問者を迎え入れては皆でサトゥラリアの日を祝い、お祭り騒ぎに乗じている。
しかし、このサトゥラリアの日は良い事ばかりではない。
人々がお祭り気分に浮かれ、心を緩めた隙を狙う物達が、最も仕事をし易くなる日でもあるのだ。
日が傾き、町に住む殆どの人々が大通りの露店に群がる頃、住居地区では数人の人影が日の落ちた石畳を歩いていた。
彼らは身なりの良い服を着て、背中には沢山の品が入っているであろう布袋を担いでいた。
傍目には「互いにプレゼント交換を終えた貴族とその友人達」といった所に見えるだろう。
だが彼らは互いに楽しげに言葉を交えつつも、街の住民達とはさほど話す事なく、
宴もたけなわという頃に街の広場を通り抜けて大門の外へと帰っていた。
その様子を街の酔っ払いや物乞いが目にしていたが、気に留めることは誰もしなかった。
同じ日の夜、ソリチュード北西部の岩山の陰にある廃墟---アイアンバックの隠れ家と呼ばれる所に、
街に居たあの貴族達三人の姿があった。
「まさかこんなに上手く行くとはな。 街の奴等は俺達を気にも留めねぇ」
大柄なノルドらしき男が貴族の服を脱ぎ捨て、着慣れた毛皮にその身を包み直す。
「あの街は祭りの度ごとに門を開けてわざわざ迎え入れてくれる。 街道で襲うより安全で、稼ぎも良い」
ボズマー---ウッドエルフの男はそう返事をしつつ、担いでいた荷物を降ろして岩に腰掛けた。
「それにしても、こんなに溜め込んでいるとはね。 この服の持ち主、落馬で死んだあのマヌケな貴族達に感謝だよ」
レッドガードの女は高級そうな服を麻袋に突っ込み、代わりに毛皮のマントに身を包んだ。
彼らは、人数は少ないながらも長年山賊としてならした盗みの猛者達であった。
これまでの山賊家業においても手練れであったが、
ボズマーの男が発案したやり方で更なる稼ぎを楽をして手に入れられる事となった。
三人は夫々担いでいた大きな袋を逆さまにすると、
各種貴金属品や、中身の詰まった錬金薬の瓶に、少々高値のワイン、セプティム金貨が詰まった皮袋など、
ソリチュードの家々から盗んできた品が床に転がり出た。
「この程度なら盗まれた事に気づくのに時間がかかるだろうし、
消耗品なら売り払っても足がつきにくい。 ハハハ、正に"全ての人々にエドラの祝福を"だな!」
そういって三人の纏め役らしきノルドは大声で笑った。
「あぁ、そうだな…ん? 何だこれは」
ボズマーは盗品の中に見慣れない袋が紛れ込んでいる事に気づいた。
「中身は…変な鉱石と、人形?」
その袋の中には暗紫色をした水晶の様な石が数個と、アルゴニアンを模したのであろう赤いぬいぐるみが一つ入っていた。
「何だこりゃ。 おい、こんな変な物を盗って来た奴は誰だ?」
ノルドは奇妙な石を手にしてイラ付いた様に怒鳴った。
見たところ石は宝石でもなく、濁った様な色合いをしていて金銭価値は低そうに見えたからだ。
「ちょっと待ちな。 それは黒魂石じゃないか」
いらついた様子のノルドの言葉を遮ってレッドガードが石に顔を近づけた。
「黒魂石っていやあ、人間の魂を吸い取るっていうアレか?」
彼女の言葉を聞いたノルドは触りたくないとばかりに石をレッドガードの方へ放り投げた。
「持ってるだけで吸い取られたりはしないさ。 魔法を使う必要があるからね」
そう言いつつ彼女は黒魂石をしげしげと見つめた。
石の白黒問わず、魂石の中に生物の魂が取り込まれているならば僅かに輝く筈だが、
この石には光っている様子は見られなかった。
「こいつは…空だね。 まぁこれだけでも欲しがる奴に売れば、捨て値で300セプティムは行くだろうさ。
中に人間の魂が入ってりゃ価値が上がって、700は下らないだろうけど…あたし等が怪しまれるのも確かだね」
そういってレッドガードは殻の黒魂石をノルドに投げ返した。
「フン、成程な。 死霊術士の知り合いでも居りゃその辺の奴の魂を詰め込められそうだが、
まぁコイツはそのまま売るとするか」
そういってノルドは先程とうってかわって黒魂石を大事そうに袋に詰め直した。
「それで、こっちの人形は何なんだ…?」
二人の様子を見ていたボズマーが同じ袋に入っていた人形を手に取った。
見た所は高級品というわけでもなく、手作り感の漂うアルゴニアンのぬいぐるみに見えた。
「付呪が施されている…という感じじゃ無いね。 子供用のプレゼントかもしれない」
レッドガードは人形をしげしげと見つめ、そう呟いた。
「サトゥラリアのプレゼントに黒魂石と人形を送るってのか? 悪趣味な親も居たもんだ」
そういうとノルドはボズマーの手から人形を取り上げ、廃墟の外へ放り投げた。
「おい、変な所に放り捨てて旅人が気づいたらどうするんだ」
ボズマーがノルドの行動を咎めたが、
「下の街道で誰かが足を止めりゃ、お前さんがそいつの頭を撃ち抜きやすいだろ?」
皮肉っぽく笑みを浮かべ、頭領のノルドは満足した様に隠れ家の床に寝転んだ。
他の二人も仕方がないという顔をしつつも、
今日の稼ぎに満足した様子で夫々の持ち場となる岩や瓦礫の山に腰掛け、
盗んできたワインを開けて呷った。
山賊達が仕事を終えて自分達の宴を開き始めた頃、
ソリチュードの街では住人達が家財を盗まれた事に気づき始めていた。
空き巣被害の訴えが一人二人と増える毎に、街の中に祭りとは違ったざわめきが広がっていくが、
その様子を落ち着いた顔で眺める者が居た。
『…まぁ、丁度良い機会という所か』
その者は誰とも無しに呟き、人々の喧騒を尻目にソリチュードの大門を潜り、街の外へと歩いていった。
そして深夜、アイアンバックの隠れ家では三人の山賊が宴を終え、
互いに見張りを交代しつつ眠りについていた。
丁度岩場の上で見張りをしていたボズマーの男は、風の音の中に違和感を感じた様な気がした。
(んん? 誰か居るのか)
弓を手に取り、隠れ家の下へ確認に向かったが特に人や生き物の気配は感じられなかった。
「気のせいだったか…」
隠れ家に戻ろうとした時、坂の上にある隠れ家の方から物音が聞こえた。
「今の音…っう?!」
上を確認しようとした瞬間、彼は何者かに布袋を被せられた様な感覚に陥った。
必死にもがこうとするが袋は外れず、むしろ体全体を袋に押し込まれて行くような圧迫感すら感じてしまう。
ボズマーは暗闇と息苦しさの中で必死に暴れたが、何が起こったのか分からないままに意識を失ってしまった。
それから暫く経ち、レッドガードが目を覚ました。
次の見張りは自分の筈だが、交代を呼ぶ声が感じられない。
不思議に思った彼女は隠れ家の周囲を見回すが、ボズマーの姿は見当たらなかった。
「アイツ、何処に行ったんだ…」
周囲を見回していた最中、坂の下に見覚えのある弓と何かの塊の様なものがあるのが目に留まった。
「これは、アイツの弓? こっちは…何で人形がここに」
弓の傍には、先程ノルドが崖下へ放り投げた筈の人形が落ちていた。
「…まさか、ボズマーの奴はこの人形が欲しかったから探しに行ったってのか?」
半ば呆れた様な顔をしつつ、弓と人形を一緒に拾い上げ、隠れ家へ戻ろうと坂を上り始める。
「でも一体アイツはどこに…ん、これは?」
ふと人形を見ると、胴の部分は空洞の様な触り心地になっており、
人形の口から内側に物を入れられる構造になっているようだった。
「成程、アイツはこれに気づいてたって訳か」
確かに、一見唯の人形に見えるそれに貴重品などを隠しておけば、
盗人の目に留まったとしても金目の物とは思わないであろう。
「ボズマーの奴、やはり切れ者だねぇ…」
そう呟いてレッドガードは人形の口に手を入れた。
人形全体の大きさは然程でも無かったが、内側は彼女が予想してたよりも広く、
手を肘辺りまで人形の口に押し込んでもまだ奥がありそうに感じるほどだった。
「んん?…一体どうなってるんだいこれは…」
更に人形の奥へ腕を押し込み、隠された品が無いかと探していた時、
不意に腕がひとりでに引き込まれる様な感覚に陥った。
「? 今の…んぅっ!?」
一瞬手の動きが止まった瞬間、腕が思い切り人形の内側へと引き込まれ、
それに合わせて彼女自身も頭から脇近くまでズルリと人形の口の中に引き込まれてしまった。
(何、抜けない…ぅぐ!)
まだ人形の外側に残った足をバタつかせて抜け出そうともがくが、
信じられない圧力と吸引力で腕と体が人形の中へ飲み込まれていく。
外側からは小さな人形が人間の大人を腕ごと飲み込んでいくという光景になっていたが、
人形の体は不思議と膨らむ事もなく、本来ならば人形の内側から響くであろう彼女の呻き声も響かず、
アルゴニアンの見た目をした人形はそのまま女山賊の体を足先までズルリと呑みきると、
先程までの静寂と共に廃墟の瓦礫の傍に転がった。
それから暫く後、頭領のノルドが目を覚ました。
寝ぼけた頭で周囲を見回すが、他の二人の姿が見えない。
「何だ…おい何処に行った?」
ノルドは明らかに不満といらつきの混じった顔をして立ち上がった。
ふと寝床の横に積んであった盗品の山を見ると、あの黒魂石の入った袋の口が開き、中身が床に転がり落ちているのが見えた。
「コイツは…盗みやがったのか?」
数えると石の数が先程より2つ程減っており、他の盗品の山も何者かが触れて崩した様な痕跡が見られた。
「アイツら、どこに行きやがった…」
長年盗みの相棒として旅をして来た二人に裏切られたと考え、ノルドは激高した。
"二人に会わせてやろう"
その時何処からか低い声が響いた。
「何? 誰だ、どこに隠れている!」
その声にノルドは素早く廃墟の陰に身を隠し、腰から短剣を抜いて構えた。
声が聞こえてからの一連の慣れた動きは、彼が盗賊の他に戦士としても熟練した腕である事が伺えるだろう。
"目の前に居る"
姿の見えないその声は、彼のほぼ正面から響いていた。
ノルドは短剣を構えつつ、透明化の術か魔法薬の類かと目を凝らすが、正面の空間には盗品の山しか存在しない。
隠れ家の外にも注意を払いつつ、ノルドは盗品の山にゆっくりと歩み寄った。
「なんだこりゃ…さっき捨てたはずだ」
ふと目に留まったのは、自分が寝る前に投げ捨てた筈の人形だった。
次の一瞬、彼の頭にありえない想像が過ぎりつつも後ろに身を引くのと、
人形が彼の顔めがけて飛び掛るのはほぼ同時だった。
「うぁっ?! な、なんだコイツは!!」
寸での所で掴みかかられるのは避けたが、目の前の対象を理解するには聊か時間の猶予が無い状況だった。
"ほう、やるじゃあないか"
その言葉を発する対象---あの人形はノルドの目の前に自らの足で立ち、
青いボタンで出来た目で彼を見据えていた。
「貴様、死霊術かなにかか」
ノルドは混乱する思考をなんとか落ち着かせ、場の状況を確認しようとした。
愛用の斧は人形を挟んだ隠れ家の反対側にあり、今は短剣しか無い。
だが彼は冷静に周囲の気配を感じ取り、僅かに人形から距離を取った。
そして次の瞬間、人形に蹴りを入れるかの如く距離を詰め、そのまま部屋の反対側まで走った。
たとえ蹴りは当たらずとも、相手が誰であろうと急に間合いを詰められれば守りに回ろうとして、
避けるか退くかするであろうと踏んだのだ。
そして思惑は当たり、人形は人間の様な素早い動きで横に飛び、互いの位置が入れ替わるようにして
ノルドは斧の柄に手をかける事に成功した。
だが彼はこの判断が悪手である事に気づかなかった。
人形から一瞬目を離し、短剣から斧に持ち直して向き直った時には視界から人形が消えていた。
「どこに逃げた…?」
周囲を見回すが、人形の姿も気配も感じられなかった。
(人形に人と同じ様な気配があればの話であるが)
「畜生、逃げたか」
そして自らが逃げようとせず、人形が逃げたのだと考えてしまった事。
一瞬の後、彼の視線が上を向くのと、人形が彼の顔めがけて飛び掛るのはほぼ同時だった。
"つかまえた"
ノルドの上半身に掴みかかった人形の腕は、人間のそれよりも強い力で彼の頭を押さえつけた。
「ぐぉあっ 離しやが…!!」
人形を引き剥がそうにも人形の両足で上腕と肩を挟まれてしまい振り解けず、
今手に持っている斧は片手では到底振れない大きさだ。
せめて先程の短剣をまだ手に握っていたら---そんな考えが脳裏に過ぎると共に、
ノルドの思惑を見透かしたかの様に、表情の無い人形の口の端が笑った様に歪んだ気がした。
"慌てる必要は無い。お前も、奴等の所へ案内してやろう"
人形はそう言うと山賊の目の前で口を開き、一気に覆い被さった。
「ぅう゛ッ?! な・この…!!」
予想外の事に一瞬反応が遅れ、ノルドは頭から肩口までが人形の口の中へ引き込まれてしまった。
彼の視界には布で出来た、本来の生物ならば食道へ繋がるであろう筒状の道に覆われ、
それは生物本来のものと見間違える程に生々しく収縮し、彼の体を更に奥へと引きずり込んでいく。
ノルドは飲み込まれまいと暴れようとしたが、オーガの如き強さの人形の腕に抑え込まれてしまい、
次第に上半身、腰、足の付け根と、自身の体が人形の口内に納まっていく感触が否が応にも伝わってくる。
そして頭の側では、奇妙な事が起き始めていた。
今までは布の筒に締め付けられていた筈が、
次第に周囲の感触が湿った生皮の様なものに変わってきている感覚を感じたのだ。
そしてノルドの体のほぼ全身が人形の口に消える辺りで、
彼の頭はきつめに収縮して波打つ、一際狭いパッキン状の筒を通り抜けて少し広めの場所へと送り込まれていった。
「うぐぁっ、なんだ一体…?!」
中は暗闇に包まれ、広いとは言えど頭を僅かに動かせる程度でしかなかったが、
彼は視界の端に青く輝く何かを見つけた。
上半身までが狭い筒を通り抜けた辺りで、ノルドは何とか手を動かして光る何かを手に取ろうとした。
空間全体を包む壁はまるで狩りをした直後に解体した動物の内臓の様に湿り気と温かさがあり、
奇妙な液体に濡れていて、体を支えようと力を込めてもぬめりで姿勢を保つ事が難しかったが、
それでもなんとか腕を伸ばして光る塊を手に取る事が出来た。
それと同時に、彼は最も受け入れたくないであろう事実を知る事にもなった。
青く光る小さな塊の中に、相棒であるボズマーとレッドガードの姿が朧気に映っているのが見えた。
今自分の手の中にあるそれは、彼等の魂を取り込んで光を放つ、あの黒魂石だったのだ。
そして、その光が更なる現実をノルドに見せ付けてきた。
青い光に照らされた周囲は布で出来た袋などではなく、
粘液に塗れ、淡赤色に染まった肉の袋---生物の胃袋そのものであった。
「な…なんだここは? 出せっ! 出しやがれ!!」
だが、布の人形の体内が生身のそれであったという事実は到底受け入れられなかったのか、
ノルドは未だ自身が人形の内側に捕われたのだろうと考え、全身を締め付けてくる肉の壁を押し返そうとしていた。
"あぁ、そういやぁお前の分を忘れていた"
ふと頭上からあの声が響くと共に、自身が包まれている肉の袋が大きく揺れ、
その数秒後に彼の目前に硬い何かが落ちてきた。
それはまだ輝きを発していないあの黒魂石だった。
「こいつは…まさか」
その瞬間ノルドは全てを理解した。 いや、理解させられた。
黒魂石に閉じ込められた仲間の魂、そしてこの後自らの身にも起こるであろう事。
石が落ちてくるのと同時に周囲の肉壁のぬめりが増し、
粘液とは違う液体がノルドの体にかかり、濡らしていく。
それはイーストマーチに湧く温泉の様な温かさでもあったが、
液体がかかった箇所が次第にむず痒く感じ始めてくる。
「止めろっ 出しやがれバケモノめ!!」
ノルドはその痒みが何なのかを本能的に察知し、両手足を突っ張らせる様にしてもがこうとするものの、
肉の袋は彼の動きを文字通り包み込む様に抑え込んでその自由を奪い続けた。
そして、彼の動きの激しさと比例するかの様に袋の中には液体が溜まり続け、
次第にむず痒さがヒリヒリとした痛みに変わっていくのをノルドは感じた。
「クソッ…だ、出せ…こ・の…!!」
彼の全身が焼かれる様な痛みに包まれ始める頃になると、
暴れる動きが次第に弱まっていくのが彼自身にも感じ取れていた。
新たな空気が入ってこない、密閉した状態に近い肉の袋の中で激しく暴れた事で酸素を消耗してしまい、
窒息しかけていたのだ。
人形と対峙した際に戦おうとせず逃げていれば。
もしくは、大降りな斧ではなく短剣をまだ握っていたならば。
数分前の事が脳裏に過ぎりつつ、ノルドの意識は自らの体と共に粘つく液体の海の中へ沈んでいった。
それと同時に、肉の袋の中で不思議な事が起こり始める。
肉の壁の収縮が強まると共に、全体が青白く光り輝き、
その光はノルドと三つ目の黒魂石を包み込んでいったのだ。
双子の月が真上程にまで昇った頃のアイアンバックの隠れ家、
生ける者の姿は無く、廃墟の床に人形だけが鎮座するその場に大きな影が近づいてきた。
全身を漆黒の衣に包み、鍔広の旅人帽を被った大柄なアルゴニアン。
その顔はあの人形にとても似ており、彼の腹部は筋肉質な外見とは不釣合いな程に大きく膨らんでいた。
『フム…予想よりは楽に動けたが、伝通距離は短いな。
コイツと体の感覚や意識を繋げる為にかなり近づかねばならんのは、扱いが難しい…』
彼はそう呟くと自らの姿に似た人形を拾い上げた。
『俺が居ない間の、ガキ共や家衛用に役立つ"存在の相互伝通式分身人形"とか言っていたが、
意識伝通をもう一声、といった所か…? まぁ、いいか』
独り言を呟きながら人形に付いた土や雪を払い、
盗品の山を袋に詰め直す彼の腹からは濁った水音が響き続け、僅かずつも萎んで行っている様に感じ取れた。
『ふぅ…ップ。 幾つか石を使っちまったが…仕方ない、朝までに仕入れに行くか』
彼は胃に溜まっていた空気と共に、青白く輝く三つの黒魂石を吐き出した。
先程、山賊達を体内で消化する際に胃壁から魂縛の魔術を放ち、
本来ならばエセリウスかソブンガルデにでも運ばれるであろう彼等の魂を黒魂石に閉じ込めたのだ。
普通の人間は体内で魔術を発動させる事は至難の技である筈だが、
彼はそれらの事が自然と行える体質であった。
むしろ手の先から発動するよりも簡単であった程にだ。
『さて…コイツ等をどうするか。
アルディスに投げるのも楽だが…久々に"アレ"やるか』
盗品の山を再度袋に詰め込み、山賊が三人がかりで運んだそれを黒衣のアルゴニアンは片手で担ぎ上げ、
先程までの無愛想な顔とは一転して子供が悪戯を考えているかの様な笑みを浮かべ、
彼は雪の降る岩山を降りていった。
サトゥラリアの翌日、ソリチュードの街の人々は目を覚ました直後に、ほぼ全員が肝を冷やしたであろう。
家の中のありとあらゆる収納や金庫の鍵が外され、戸棚や室内の扉は全て開けられていたからだ。
だが不思議な事に家の外へ続く扉は総じて鍵が閉まっており、
室内の品も鍵を外されていただけで何も盗まれてはいなかったのだ。
否、全ての品が前日の夕刻に盗まれる以前の状態に戻っていたという方が正しい。
人々はエドラの神々がサトゥラリアの贈物として盗まれた品を戻してくれたのだと歓喜したが、
ソリチュードを守る衛兵隊の隊長であるアルディスだけはやや渋い様な、複雑な顔で彼等を見つめていた。
彼が宿舎で目覚めた際、彼のベッドの脇に手紙が落ちていたからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルディス隊長へ
昨日の騒動は全て解決した
そちらで動く必要は無いだろう
住民共の家には少々悪戯をさせて貰ったが
久々に遊んでみたくなっただけだ、他意は無い
では、良い年の瀬を。
支配の王の従僕より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なにはともあれ、ソリチュードの街には普段と変わらぬ日常が戻り、
人々は露店の間を行き交い、兵士達は鍛錬に精を出す。
あの日以降、ソリチュードには一つの噂が広まった。
【サトゥラリアの夜に、人々から喜びを奪う者には神の罰が下る】
まぁ、その神が何であったのかは、誰も知る由が無いのだが。
Artist Twitter https://twitter.com/foalu
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I wrote a novel from the atmosphere of this illustration.
Now is Contents of Japanese only.
English Translation is undecided.
coming soon...?
Foaluさんから頂いた「Leyのヴードゥー人形的ぬいぐるみを作るFoaluさん」のイラストにインスピレーションがビビっと来たので、
短編読み物を書いてみました。
【サトゥラリアの夜に】
星霜の月25日、タムリエルの人々は“サトゥラリア”を祝う。
古き時代には単に放蕩に浮かれ騒ぐ休日だったが、
今日では親しい間柄の人へ感謝の意を表す為の贈答行ったり、パーティーを開く日と認識されるようになっている。
街の中はお祭り気分の人々で溢れかえり、通りは様々な露店が並び、
そこかしこの家から楽しげな声が響き渡る。
SKYRIMと呼ばれる土地の北方にある大都市ソリチュード、その街も例に漏れず人々で賑わい、
日が落ちた後も市内の大通りには露店が並び続け、
平時は厳しい鍛錬や戦いに明け暮れる兵士達も一時の平穏を楽しんでいた。
普段は大きな門で住民以外の出入りが制限されているこの街も、今日のみは大門が開かれ、
行商人や賑わい目当ての観光客など訪問者を迎え入れては皆でサトゥラリアの日を祝い、お祭り騒ぎに乗じている。
しかし、このサトゥラリアの日は良い事ばかりではない。
人々がお祭り気分に浮かれ、心を緩めた隙を狙う物達が、最も仕事をし易くなる日でもあるのだ。
日が傾き、町に住む殆どの人々が大通りの露店に群がる頃、住居地区では数人の人影が日の落ちた石畳を歩いていた。
彼らは身なりの良い服を着て、背中には沢山の品が入っているであろう布袋を担いでいた。
傍目には「互いにプレゼント交換を終えた貴族とその友人達」といった所に見えるだろう。
だが彼らは互いに楽しげに言葉を交えつつも、街の住民達とはさほど話す事なく、
宴もたけなわという頃に街の広場を通り抜けて大門の外へと帰っていた。
その様子を街の酔っ払いや物乞いが目にしていたが、気に留めることは誰もしなかった。
同じ日の夜、ソリチュード北西部の岩山の陰にある廃墟---アイアンバックの隠れ家と呼ばれる所に、
街に居たあの貴族達三人の姿があった。
「まさかこんなに上手く行くとはな。 街の奴等は俺達を気にも留めねぇ」
大柄なノルドらしき男が貴族の服を脱ぎ捨て、着慣れた毛皮にその身を包み直す。
「あの街は祭りの度ごとに門を開けてわざわざ迎え入れてくれる。 街道で襲うより安全で、稼ぎも良い」
ボズマー---ウッドエルフの男はそう返事をしつつ、担いでいた荷物を降ろして岩に腰掛けた。
「それにしても、こんなに溜め込んでいるとはね。 この服の持ち主、落馬で死んだあのマヌケな貴族達に感謝だよ」
レッドガードの女は高級そうな服を麻袋に突っ込み、代わりに毛皮のマントに身を包んだ。
彼らは、人数は少ないながらも長年山賊としてならした盗みの猛者達であった。
これまでの山賊家業においても手練れであったが、
ボズマーの男が発案したやり方で更なる稼ぎを楽をして手に入れられる事となった。
三人は夫々担いでいた大きな袋を逆さまにすると、
各種貴金属品や、中身の詰まった錬金薬の瓶に、少々高値のワイン、セプティム金貨が詰まった皮袋など、
ソリチュードの家々から盗んできた品が床に転がり出た。
「この程度なら盗まれた事に気づくのに時間がかかるだろうし、
消耗品なら売り払っても足がつきにくい。 ハハハ、正に"全ての人々にエドラの祝福を"だな!」
そういって三人の纏め役らしきノルドは大声で笑った。
「あぁ、そうだな…ん? 何だこれは」
ボズマーは盗品の中に見慣れない袋が紛れ込んでいる事に気づいた。
「中身は…変な鉱石と、人形?」
その袋の中には暗紫色をした水晶の様な石が数個と、アルゴニアンを模したのであろう赤いぬいぐるみが一つ入っていた。
「何だこりゃ。 おい、こんな変な物を盗って来た奴は誰だ?」
ノルドは奇妙な石を手にしてイラ付いた様に怒鳴った。
見たところ石は宝石でもなく、濁った様な色合いをしていて金銭価値は低そうに見えたからだ。
「ちょっと待ちな。 それは黒魂石じゃないか」
いらついた様子のノルドの言葉を遮ってレッドガードが石に顔を近づけた。
「黒魂石っていやあ、人間の魂を吸い取るっていうアレか?」
彼女の言葉を聞いたノルドは触りたくないとばかりに石をレッドガードの方へ放り投げた。
「持ってるだけで吸い取られたりはしないさ。 魔法を使う必要があるからね」
そう言いつつ彼女は黒魂石をしげしげと見つめた。
石の白黒問わず、魂石の中に生物の魂が取り込まれているならば僅かに輝く筈だが、
この石には光っている様子は見られなかった。
「こいつは…空だね。 まぁこれだけでも欲しがる奴に売れば、捨て値で300セプティムは行くだろうさ。
中に人間の魂が入ってりゃ価値が上がって、700は下らないだろうけど…あたし等が怪しまれるのも確かだね」
そういってレッドガードは殻の黒魂石をノルドに投げ返した。
「フン、成程な。 死霊術士の知り合いでも居りゃその辺の奴の魂を詰め込められそうだが、
まぁコイツはそのまま売るとするか」
そういってノルドは先程とうってかわって黒魂石を大事そうに袋に詰め直した。
「それで、こっちの人形は何なんだ…?」
二人の様子を見ていたボズマーが同じ袋に入っていた人形を手に取った。
見た所は高級品というわけでもなく、手作り感の漂うアルゴニアンのぬいぐるみに見えた。
「付呪が施されている…という感じじゃ無いね。 子供用のプレゼントかもしれない」
レッドガードは人形をしげしげと見つめ、そう呟いた。
「サトゥラリアのプレゼントに黒魂石と人形を送るってのか? 悪趣味な親も居たもんだ」
そういうとノルドはボズマーの手から人形を取り上げ、廃墟の外へ放り投げた。
「おい、変な所に放り捨てて旅人が気づいたらどうするんだ」
ボズマーがノルドの行動を咎めたが、
「下の街道で誰かが足を止めりゃ、お前さんがそいつの頭を撃ち抜きやすいだろ?」
皮肉っぽく笑みを浮かべ、頭領のノルドは満足した様に隠れ家の床に寝転んだ。
他の二人も仕方がないという顔をしつつも、
今日の稼ぎに満足した様子で夫々の持ち場となる岩や瓦礫の山に腰掛け、
盗んできたワインを開けて呷った。
山賊達が仕事を終えて自分達の宴を開き始めた頃、
ソリチュードの街では住人達が家財を盗まれた事に気づき始めていた。
空き巣被害の訴えが一人二人と増える毎に、街の中に祭りとは違ったざわめきが広がっていくが、
その様子を落ち着いた顔で眺める者が居た。
『…まぁ、丁度良い機会という所か』
その者は誰とも無しに呟き、人々の喧騒を尻目にソリチュードの大門を潜り、街の外へと歩いていった。
そして深夜、アイアンバックの隠れ家では三人の山賊が宴を終え、
互いに見張りを交代しつつ眠りについていた。
丁度岩場の上で見張りをしていたボズマーの男は、風の音の中に違和感を感じた様な気がした。
(んん? 誰か居るのか)
弓を手に取り、隠れ家の下へ確認に向かったが特に人や生き物の気配は感じられなかった。
「気のせいだったか…」
隠れ家に戻ろうとした時、坂の上にある隠れ家の方から物音が聞こえた。
「今の音…っう?!」
上を確認しようとした瞬間、彼は何者かに布袋を被せられた様な感覚に陥った。
必死にもがこうとするが袋は外れず、むしろ体全体を袋に押し込まれて行くような圧迫感すら感じてしまう。
ボズマーは暗闇と息苦しさの中で必死に暴れたが、何が起こったのか分からないままに意識を失ってしまった。
それから暫く経ち、レッドガードが目を覚ました。
次の見張りは自分の筈だが、交代を呼ぶ声が感じられない。
不思議に思った彼女は隠れ家の周囲を見回すが、ボズマーの姿は見当たらなかった。
「アイツ、何処に行ったんだ…」
周囲を見回していた最中、坂の下に見覚えのある弓と何かの塊の様なものがあるのが目に留まった。
「これは、アイツの弓? こっちは…何で人形がここに」
弓の傍には、先程ノルドが崖下へ放り投げた筈の人形が落ちていた。
「…まさか、ボズマーの奴はこの人形が欲しかったから探しに行ったってのか?」
半ば呆れた様な顔をしつつ、弓と人形を一緒に拾い上げ、隠れ家へ戻ろうと坂を上り始める。
「でも一体アイツはどこに…ん、これは?」
ふと人形を見ると、胴の部分は空洞の様な触り心地になっており、
人形の口から内側に物を入れられる構造になっているようだった。
「成程、アイツはこれに気づいてたって訳か」
確かに、一見唯の人形に見えるそれに貴重品などを隠しておけば、
盗人の目に留まったとしても金目の物とは思わないであろう。
「ボズマーの奴、やはり切れ者だねぇ…」
そう呟いてレッドガードは人形の口に手を入れた。
人形全体の大きさは然程でも無かったが、内側は彼女が予想してたよりも広く、
手を肘辺りまで人形の口に押し込んでもまだ奥がありそうに感じるほどだった。
「んん?…一体どうなってるんだいこれは…」
更に人形の奥へ腕を押し込み、隠された品が無いかと探していた時、
不意に腕がひとりでに引き込まれる様な感覚に陥った。
「? 今の…んぅっ!?」
一瞬手の動きが止まった瞬間、腕が思い切り人形の内側へと引き込まれ、
それに合わせて彼女自身も頭から脇近くまでズルリと人形の口の中に引き込まれてしまった。
(何、抜けない…ぅぐ!)
まだ人形の外側に残った足をバタつかせて抜け出そうともがくが、
信じられない圧力と吸引力で腕と体が人形の中へ飲み込まれていく。
外側からは小さな人形が人間の大人を腕ごと飲み込んでいくという光景になっていたが、
人形の体は不思議と膨らむ事もなく、本来ならば人形の内側から響くであろう彼女の呻き声も響かず、
アルゴニアンの見た目をした人形はそのまま女山賊の体を足先までズルリと呑みきると、
先程までの静寂と共に廃墟の瓦礫の傍に転がった。
それから暫く後、頭領のノルドが目を覚ました。
寝ぼけた頭で周囲を見回すが、他の二人の姿が見えない。
「何だ…おい何処に行った?」
ノルドは明らかに不満といらつきの混じった顔をして立ち上がった。
ふと寝床の横に積んであった盗品の山を見ると、あの黒魂石の入った袋の口が開き、中身が床に転がり落ちているのが見えた。
「コイツは…盗みやがったのか?」
数えると石の数が先程より2つ程減っており、他の盗品の山も何者かが触れて崩した様な痕跡が見られた。
「アイツら、どこに行きやがった…」
長年盗みの相棒として旅をして来た二人に裏切られたと考え、ノルドは激高した。
"二人に会わせてやろう"
その時何処からか低い声が響いた。
「何? 誰だ、どこに隠れている!」
その声にノルドは素早く廃墟の陰に身を隠し、腰から短剣を抜いて構えた。
声が聞こえてからの一連の慣れた動きは、彼が盗賊の他に戦士としても熟練した腕である事が伺えるだろう。
"目の前に居る"
姿の見えないその声は、彼のほぼ正面から響いていた。
ノルドは短剣を構えつつ、透明化の術か魔法薬の類かと目を凝らすが、正面の空間には盗品の山しか存在しない。
隠れ家の外にも注意を払いつつ、ノルドは盗品の山にゆっくりと歩み寄った。
「なんだこりゃ…さっき捨てたはずだ」
ふと目に留まったのは、自分が寝る前に投げ捨てた筈の人形だった。
次の一瞬、彼の頭にありえない想像が過ぎりつつも後ろに身を引くのと、
人形が彼の顔めがけて飛び掛るのはほぼ同時だった。
「うぁっ?! な、なんだコイツは!!」
寸での所で掴みかかられるのは避けたが、目の前の対象を理解するには聊か時間の猶予が無い状況だった。
"ほう、やるじゃあないか"
その言葉を発する対象---あの人形はノルドの目の前に自らの足で立ち、
青いボタンで出来た目で彼を見据えていた。
「貴様、死霊術かなにかか」
ノルドは混乱する思考をなんとか落ち着かせ、場の状況を確認しようとした。
愛用の斧は人形を挟んだ隠れ家の反対側にあり、今は短剣しか無い。
だが彼は冷静に周囲の気配を感じ取り、僅かに人形から距離を取った。
そして次の瞬間、人形に蹴りを入れるかの如く距離を詰め、そのまま部屋の反対側まで走った。
たとえ蹴りは当たらずとも、相手が誰であろうと急に間合いを詰められれば守りに回ろうとして、
避けるか退くかするであろうと踏んだのだ。
そして思惑は当たり、人形は人間の様な素早い動きで横に飛び、互いの位置が入れ替わるようにして
ノルドは斧の柄に手をかける事に成功した。
だが彼はこの判断が悪手である事に気づかなかった。
人形から一瞬目を離し、短剣から斧に持ち直して向き直った時には視界から人形が消えていた。
「どこに逃げた…?」
周囲を見回すが、人形の姿も気配も感じられなかった。
(人形に人と同じ様な気配があればの話であるが)
「畜生、逃げたか」
そして自らが逃げようとせず、人形が逃げたのだと考えてしまった事。
一瞬の後、彼の視線が上を向くのと、人形が彼の顔めがけて飛び掛るのはほぼ同時だった。
"つかまえた"
ノルドの上半身に掴みかかった人形の腕は、人間のそれよりも強い力で彼の頭を押さえつけた。
「ぐぉあっ 離しやが…!!」
人形を引き剥がそうにも人形の両足で上腕と肩を挟まれてしまい振り解けず、
今手に持っている斧は片手では到底振れない大きさだ。
せめて先程の短剣をまだ手に握っていたら---そんな考えが脳裏に過ぎると共に、
ノルドの思惑を見透かしたかの様に、表情の無い人形の口の端が笑った様に歪んだ気がした。
"慌てる必要は無い。お前も、奴等の所へ案内してやろう"
人形はそう言うと山賊の目の前で口を開き、一気に覆い被さった。
「ぅう゛ッ?! な・この…!!」
予想外の事に一瞬反応が遅れ、ノルドは頭から肩口までが人形の口の中へ引き込まれてしまった。
彼の視界には布で出来た、本来の生物ならば食道へ繋がるであろう筒状の道に覆われ、
それは生物本来のものと見間違える程に生々しく収縮し、彼の体を更に奥へと引きずり込んでいく。
ノルドは飲み込まれまいと暴れようとしたが、オーガの如き強さの人形の腕に抑え込まれてしまい、
次第に上半身、腰、足の付け根と、自身の体が人形の口内に納まっていく感触が否が応にも伝わってくる。
そして頭の側では、奇妙な事が起き始めていた。
今までは布の筒に締め付けられていた筈が、
次第に周囲の感触が湿った生皮の様なものに変わってきている感覚を感じたのだ。
そしてノルドの体のほぼ全身が人形の口に消える辺りで、
彼の頭はきつめに収縮して波打つ、一際狭いパッキン状の筒を通り抜けて少し広めの場所へと送り込まれていった。
「うぐぁっ、なんだ一体…?!」
中は暗闇に包まれ、広いとは言えど頭を僅かに動かせる程度でしかなかったが、
彼は視界の端に青く輝く何かを見つけた。
上半身までが狭い筒を通り抜けた辺りで、ノルドは何とか手を動かして光る何かを手に取ろうとした。
空間全体を包む壁はまるで狩りをした直後に解体した動物の内臓の様に湿り気と温かさがあり、
奇妙な液体に濡れていて、体を支えようと力を込めてもぬめりで姿勢を保つ事が難しかったが、
それでもなんとか腕を伸ばして光る塊を手に取る事が出来た。
それと同時に、彼は最も受け入れたくないであろう事実を知る事にもなった。
青く光る小さな塊の中に、相棒であるボズマーとレッドガードの姿が朧気に映っているのが見えた。
今自分の手の中にあるそれは、彼等の魂を取り込んで光を放つ、あの黒魂石だったのだ。
そして、その光が更なる現実をノルドに見せ付けてきた。
青い光に照らされた周囲は布で出来た袋などではなく、
粘液に塗れ、淡赤色に染まった肉の袋---生物の胃袋そのものであった。
「な…なんだここは? 出せっ! 出しやがれ!!」
だが、布の人形の体内が生身のそれであったという事実は到底受け入れられなかったのか、
ノルドは未だ自身が人形の内側に捕われたのだろうと考え、全身を締め付けてくる肉の壁を押し返そうとしていた。
"あぁ、そういやぁお前の分を忘れていた"
ふと頭上からあの声が響くと共に、自身が包まれている肉の袋が大きく揺れ、
その数秒後に彼の目前に硬い何かが落ちてきた。
それはまだ輝きを発していないあの黒魂石だった。
「こいつは…まさか」
その瞬間ノルドは全てを理解した。 いや、理解させられた。
黒魂石に閉じ込められた仲間の魂、そしてこの後自らの身にも起こるであろう事。
石が落ちてくるのと同時に周囲の肉壁のぬめりが増し、
粘液とは違う液体がノルドの体にかかり、濡らしていく。
それはイーストマーチに湧く温泉の様な温かさでもあったが、
液体がかかった箇所が次第にむず痒く感じ始めてくる。
「止めろっ 出しやがれバケモノめ!!」
ノルドはその痒みが何なのかを本能的に察知し、両手足を突っ張らせる様にしてもがこうとするものの、
肉の袋は彼の動きを文字通り包み込む様に抑え込んでその自由を奪い続けた。
そして、彼の動きの激しさと比例するかの様に袋の中には液体が溜まり続け、
次第にむず痒さがヒリヒリとした痛みに変わっていくのをノルドは感じた。
「クソッ…だ、出せ…こ・の…!!」
彼の全身が焼かれる様な痛みに包まれ始める頃になると、
暴れる動きが次第に弱まっていくのが彼自身にも感じ取れていた。
新たな空気が入ってこない、密閉した状態に近い肉の袋の中で激しく暴れた事で酸素を消耗してしまい、
窒息しかけていたのだ。
人形と対峙した際に戦おうとせず逃げていれば。
もしくは、大降りな斧ではなく短剣をまだ握っていたならば。
数分前の事が脳裏に過ぎりつつ、ノルドの意識は自らの体と共に粘つく液体の海の中へ沈んでいった。
それと同時に、肉の袋の中で不思議な事が起こり始める。
肉の壁の収縮が強まると共に、全体が青白く光り輝き、
その光はノルドと三つ目の黒魂石を包み込んでいったのだ。
双子の月が真上程にまで昇った頃のアイアンバックの隠れ家、
生ける者の姿は無く、廃墟の床に人形だけが鎮座するその場に大きな影が近づいてきた。
全身を漆黒の衣に包み、鍔広の旅人帽を被った大柄なアルゴニアン。
その顔はあの人形にとても似ており、彼の腹部は筋肉質な外見とは不釣合いな程に大きく膨らんでいた。
『フム…予想よりは楽に動けたが、伝通距離は短いな。
コイツと体の感覚や意識を繋げる為にかなり近づかねばならんのは、扱いが難しい…』
彼はそう呟くと自らの姿に似た人形を拾い上げた。
『俺が居ない間の、ガキ共や家衛用に役立つ"存在の相互伝通式分身人形"とか言っていたが、
意識伝通をもう一声、といった所か…? まぁ、いいか』
独り言を呟きながら人形に付いた土や雪を払い、
盗品の山を袋に詰め直す彼の腹からは濁った水音が響き続け、僅かずつも萎んで行っている様に感じ取れた。
『ふぅ…ップ。 幾つか石を使っちまったが…仕方ない、朝までに仕入れに行くか』
彼は胃に溜まっていた空気と共に、青白く輝く三つの黒魂石を吐き出した。
先程、山賊達を体内で消化する際に胃壁から魂縛の魔術を放ち、
本来ならばエセリウスかソブンガルデにでも運ばれるであろう彼等の魂を黒魂石に閉じ込めたのだ。
普通の人間は体内で魔術を発動させる事は至難の技である筈だが、
彼はそれらの事が自然と行える体質であった。
むしろ手の先から発動するよりも簡単であった程にだ。
『さて…コイツ等をどうするか。
アルディスに投げるのも楽だが…久々に"アレ"やるか』
盗品の山を再度袋に詰め込み、山賊が三人がかりで運んだそれを黒衣のアルゴニアンは片手で担ぎ上げ、
先程までの無愛想な顔とは一転して子供が悪戯を考えているかの様な笑みを浮かべ、
彼は雪の降る岩山を降りていった。
サトゥラリアの翌日、ソリチュードの街の人々は目を覚ました直後に、ほぼ全員が肝を冷やしたであろう。
家の中のありとあらゆる収納や金庫の鍵が外され、戸棚や室内の扉は全て開けられていたからだ。
だが不思議な事に家の外へ続く扉は総じて鍵が閉まっており、
室内の品も鍵を外されていただけで何も盗まれてはいなかったのだ。
否、全ての品が前日の夕刻に盗まれる以前の状態に戻っていたという方が正しい。
人々はエドラの神々がサトゥラリアの贈物として盗まれた品を戻してくれたのだと歓喜したが、
ソリチュードを守る衛兵隊の隊長であるアルディスだけはやや渋い様な、複雑な顔で彼等を見つめていた。
彼が宿舎で目覚めた際、彼のベッドの脇に手紙が落ちていたからだ。
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アルディス隊長へ
昨日の騒動は全て解決した
そちらで動く必要は無いだろう
住民共の家には少々悪戯をさせて貰ったが
久々に遊んでみたくなっただけだ、他意は無い
では、良い年の瀬を。
支配の王の従僕より
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なにはともあれ、ソリチュードの街には普段と変わらぬ日常が戻り、
人々は露店の間を行き交い、兵士達は鍛錬に精を出す。
あの日以降、ソリチュードには一つの噂が広まった。
【サトゥラリアの夜に、人々から喜びを奪う者には神の罰が下る】
まぁ、その神が何であったのかは、誰も知る由が無いのだが。
Category All / All
Species Unspecified / Any
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